解雇と退職勧奨    

はじめに : 世の中に解雇が多く存在することへの驚き


「世の中では、こんなに解雇が発生しているのか」
私が社会保険労務士の仕事を始めて、驚いた事の一つです。

私は大学卒業後、数年間は一般企業の営業担当をしていたため、人事関連の世界に触れる機会がほとんど無く、
自ら社会保険労務士として開業してから、初めて接することになりました。

そして、冒頭の思いにつながります。

 それまで「解雇」というのは、かなり特殊な事であり稀にしか生じない事、という印象を持っていました。
 ところが社会保険労務士事務所では、日常的に「解雇」や「退職勧奨」の相談を受ける事になります。
 それだけ、会社ではお悩みの多いところという事です。

 しかし、やはり世間的に見れば解雇は決して多い事ではないですから、対象となった労働者が受ける心理的な負担という事は大きいと思います。

 解雇という事を進める上では、対象となる人の気持ちや生活を想像する必要も強く感じています。


当所の労務相談で最も時間を割いているのは、「解雇・退職勧奨」です。


 当所が顧客企業から頂く相談のうち最も時間を割いているのは「問題社員をなんとか辞めさせられないか?」という事です。

 行政が受ける労働相談では、長年にわたってトップだった「解雇」を「いじめ、嫌がらせ(ハラスメント)」が上回って数年となりますが、当所では「ハラスメント」よりも「解雇・退職勧奨」の相談数が上回っています。

 個人的には解雇も退職勧奨も、ましてや懲戒解雇などという事は無くなれば良いと思っていますが、いろいろな会社・団体・組織があり、いろいろな人がいます。「相性」というものもあります。従って、残念ながら解雇や退職勧奨が無くなる、という訳にはいきません。

初めから「問題社員」なのではない。入社してから「問題社員」になる事が多い。


 解雇や退職勧奨となるのは、いわゆる「問題社員」です。

会社が求める業務水準に達していない、協調性がない、上司に反抗的である、勤続年数が長い割には業務におけるミスが多い
他の従業員へのハラスメントなど迷惑をかける、遅刻や早退が多い、離席率が高い、等々の問題ある言動をとる従業員です。

しかし、全ての問題社員が初めから「問題社員」であった訳ではありません。

会社の経営スタイルや、本人への接し方などで徐々に問題社員になっていく事もあります。

問題社員が一方的に悪いという事ばかりではなく、その責任の一端は会社側にある場合もあります。(一方、最初から「問題社員」予備軍という人もいます。)

 「会社にも問題があるのではないか?」 まずは、このような自問自答をして頂く必要もあります。

 なお、ここで一つ付け加えます。これは社員側に意識してもらいたいことです。

 もし会社に問題があるからと言って、反抗的な態度を取ることや、態度を悪くすることは決して容認されないという事です。
 一度、上司や会社(総務や経営者)に話しをすることをお奨めします。会社側も自社の問題に気付いていないこともあります。
 話し合いの結果、働きやすい環境になれば、望ましい決着といえるのではないでしょうか。

 組織人として、また社会人としての常識や自覚が求められます。


問題となる社員をどうして採用してしまうのか?


 一方
「問題社員」になる人は、入社当初からその可能性を持っている人がいる事も否定できません。

 採用でよく言われるのが「忙しい時期に人手がどうしても必要だからという理由で、採用の基準を下げてはいけない」という事です。当然の事なのですが、これが難しいのです。

元々、「採用基準」は明確に数値で表すことはできません。あいまいな部分が残ります。

例えば、35歳の応募者が過去に4回の転職をしている場合、その「4回」を多いと解釈する事もあるし、少ないと解釈することもあるでしょう。
面接する人によって、その解釈が異なることは当然ですが、同じ人でもそれが起こり得ます。

忙しくて今日からでも人材が欲しい時は、「少ない」と解釈して採用するでしょう。
逆に余裕を持って求人をしている時は「多い」と解釈して不採用とするのではないでしょうか。

これは決して「採用基準」を下げた訳ではありません。無意識のうちに「基準の解釈」を変えてしまっているのです。
従って、どうしても「問題社員予備軍」の人が入社してしまう事は防げません。


それでは問題社員にはどう対応すればよいのか? まず、就業規則に定めはあるか?

ここからが本題です。

問題社員に社外に退出してもらいたい、と思うに至った場合の対応を説明していきます。

まず、就業規則に解雇と懲戒解雇の事由が明記されている事が前提になります。

就業規則を確認して頂き、まだ定めていないのであれば、すぐに整備をして労働基準監督署に意見書と共に届け出て社内に周知してください。 
(当所でも就業規則診断 および 就業規則作成 をお受けしております。)


問題言動が見られたら、再三再四、注意・指導をしてください。


 従業員に問題言動が見られる場合は、まず注意して下さい。

・・・と、簡単に書きましたが、これが注意する側である上司の神経をすり減らす事は
良く分かっています。
注意をする、または叱る上司も疲れます。本人から反発もされたくありません。言い返されたら反論できるか不安になることもあると思います。できれば、注意などはしたくない事は良く分かります。


しかし、これは避けては通れないことです。「上司」という役割に求められることです。

 問題社員には、何度も注意や指導をしてそれでも改まらない時に初めて、
解雇の選択肢が視野に入ってくるのです。

 もちろん、注意や指導をすることで、本人が問題なく勤務できるように
なる事が望ましい事です。

 解雇する事を前提に注意・指導するのではなく、問題言動が改まり、気持ちよく皆と働いてもらえるようにする事が、本来の会社・上司のすべき事です。


注意・指導は就業規則の「服務規律」などに基づいて行い、必ず記録を残す。

問題社員に注意・指導することはエネルギーが必要です。神経を使いますし、出来ればやりたくない事です。

そのため、注意・指導の根拠にできるものがあれば、それを使うことで多少は注意・指導がしやすくなります。
また、説得力も増すでしょう。

そして、その根拠が就業規則の「服務規律」です。
会社によっては数十項目を挙げていることもあります。
必要に応じてその服務規律を問題社員に示しながら注意・指導をして下さい。

相手と面と向かってやりとりするのではなく、自分と
相手との間に「就業規則に定めてある服務規律」というルールを置くのです。
これで、心理的な負担が少しは小さくなるのではないでしょうか。

そして、注意・指導した事はしっかりと記録に残してください。
・注意指導した年月日、時刻 ・注意指導の内容 ・相手の反応 
そして、その後の相手の変化(きちんと注意指導を受け入れているか否か) などです。

これが、より的確な注意指導のベースになりますし、
訴訟などに発展した時に会社側の証拠にもなります。

しかし、ここでも繰り返して言いますが、「注意指導の記録」は、
解雇を前提とするものではなく、本人の育成を目的として活用して頂きたいです。

口頭で注意や指導をしても、やっぱり問題言動が改善されない・・・

口頭で、注意や指導をしても、なかなか改善されないという困ったケースも多々、あります。

その時は、「注意書」「指導書」「改善要望書」 などの書面を渡してください。
タイトルも書式も任意で結構です。本人の問題言動を指摘して、改善するように記載してください。
そして、できれば、受け取りのサインをしてもらうとより良いです。

本人に、書面をじっくりと読んでもらい、自分自身の問題言動を自覚をしてもらう必要があります。
これで改まることを期待したいものです。

いよいよ軽度な懲戒処分を行う。しかし、それでも問題言動が改善されない・・・


口頭はもちろん、書面による注意を繰り返し行っても、まだ問題言動が改善されない場合はどうするべきでしょうか。

この時点で「それならば解雇」と判断して踏み切る場合もあります。問題言動の程度が悪く、本人にも自覚がある場合などでは、それで解決することもあります。

 一方、問題言動が多少は改善されてきて、本人にも改善へ向けて努力する姿勢が見られるのであれば、解雇ではなく、
懲戒処分のうち譴責などの軽い処分をして、様子を見る事が良いでしょう。

 しかし、ここまで丁寧に進めてきて、ご本人が改まれば良いのですが、そうならないケースも残念ながら存在します。

 引き続き、問題言動が繰り返される場合は次のステップに
移行せざるを得ません。いよいよ最終段階です。

問題言動が繰り返される、あるいは問題言動の程度が看過できない


 前項にあるように問題言動が繰り返される。
あるいは、懲戒処分を受けた事が無い場合でも、問題言動の程度がひどい、
という場合は、残念ながら社外に退出してもらう事も考えざるを得ません。

「問題言動の程度がひどい」場合は、
本人が開き直って改善される余地がない、社内の雰囲気も悪くなっている、という事などが起こっています。要は「社内秩序が乱れている」という状況です。

これらの場合、解雇事由に該当すればいきなり解雇という方法もとれます。
あるいは、事態をソフトランディングさせるために、退職勧奨という方法を選択することもあります。

そして、退職勧奨をして受け入れなければ解雇する、という手順になります。
なお、退職勧奨時に多少の「パッケージ」(優遇措置)を用意すると、より円滑な解決を望めます。


退職勧奨に際しての「パッケージ」(優遇措置)はどのように設定するか。


本来、労働基準法では、解雇に対して解雇予告や予告手当を義務付けています。(第20条 解雇の予告)
一方、退職勧奨には法的に労働者に対する補償は義務付けられていません。

しかし、社外に出ていく従業員にとっては一時的には金銭収入が無くなる、という厳しい現実が待っています。

そこで、「パッケージ」ともいわれる優遇策を適用することもあります。

「パッケージの例」

 ○解雇予告手当に準じて1ヶ月程度の金銭補償をする。

 ○取得できなかった年次有給休暇を買い上げる。あるいは、残っている年次有給休暇の日数分、退職日を延長する。

 ○在籍期間を延長してその間は社会保険の適用を継続する。(この期間も給与を支払う。)

 ○退職金に一定額の上乗せをする。

 ○転職支援会社を紹介して、費用は会社負担とする。


 これらを単独であるいは組み合わせて、対象者に提案します。


退職勧奨は悪いことなのか? 問題社員が入ってくるのか、問題社員になってしまうのか?

少し、本題から外れます。そもそも「退職勧奨」は悪い事なのか?あるいは必要悪であるのか、について考えてみます。

先に「問題社員が入ってくるのではく、問題社員になってしまう」旨を書きました。
「問題社員が入ってくるの」であれば、その人は他の会社に行っても問題社員となる可能性が高いです。

しかし、「問題社員になってしまう」のであれば、
他社では問題なく勤めることもできるでしょう。
いわば、会社と本人の相性が良くない、とも考えられます。
この場合はむしろ、本人と相性が良い会社に転職してもらうという意味でも退職勧奨」は決して悪い事ではないと思います。

人は変化を嫌うものですから、不満を持って働いている会社でも
そこから転職する事は避ける傾向が強いです。
しかし、それは「合わない会社」に我慢して勤め続けることにもなりかねません。これは会社にとっても従業員にとってもよくない事だと思います。

従業員にとっても、勤めていた会社を退職した場合、転職先があるか不安になるでしょう。
また、スムーズに転職できたとしても給与は下がらないか、
良好な人間関係を築けるか、福利厚生はしっかりとしているか、などの不安が多々あると思います。

しかし、転職して、しばらくは慣れない環境で気疲れする事もあるでしょうが、
一定期間が経過すれば、前の会社よりもずっと快適に働ける事もあると思います。

雇用の流動化が言われる社会全体の潮流がある中でも、
退職勧奨は会社と従業員が別れる際の一つの選択肢とも言えるのではないでしょうか。


退職勧奨の進め方 : 短時間で行う。少人数で行う。基本的には1回だけに留める。


退職勧奨を行うにも方法があります。

まず従業員に圧力を加えるような事や、退職を強要するような事などは行ってはいけません。
人数も会社側は1~2人の少人数で行い、時間は30分程度が限度でしょう。

それ以上の時間を話しても、同じ話の繰り返しになる可能性が高く、
進展は期待できません。
何よりも、従業員が苦痛に感じてしまいます。

もしも、
30分以上の話し合いが必要になるならば、一旦、小休止を入れるべきでしょう。
また、退職勧奨を行うのは原則として1回です。

繰り返して行っても従業員の翻意は期待できません。むしろ従業員の態度が硬化して、話がこじれかねません。

そして退職勧奨に対しては、その場で回答をもらう必要は無く、従業員に数日間は考えてもらうことが望ましいです。
後日に改めて時間をとって回答してもらいます。
無理に決着させようとしてその場で回答を強要することは避けてください。
トラブルに発展する可能性が高いです。
 


退職勧奨に応じなかった場合「パッケージ」(優遇措置)の条件を見直すべきか?

退職勧奨をしても従業員がそれに応じない事は多々あります。

従業員に応じてもらうためにも前述の「パッケージ」(優遇措置)を用意するのですが、それを提示しても応じない時に、その条件を従業員にとって有利となるよう、見直した方が良いのでしょうか?

できる事ならば、最初から最大限の「パッケージ」を提示するべきでしょうが、もしも見直すとしても、1回に限っての事が良いと考えます。

もしも、条件を小出しにするように上げていくと、お互いの足元を見るようになり、際限がなくなるおそれがあります。
従って、条件を見直すとしても1回だけが良いでしょう。


それでも退職勧奨に応じなかったら、解雇に進まざるを得ない。


ここまで進めてきても退職勧奨に応じないのであれば、解雇に進まざるを得ません。

もう一度、就業規則を確認してください。
問題言動が就業規則の懲戒解雇あるいは普通解雇の事由に該当しているでしょうか。

該当しているのであれば、解雇という処分を下すことになります。
解雇事由があるならば、解雇通知書を手渡してください。この後は通常の解雇の手順となります。

もしも、初めから解雇事由には該当しない程度の理由で退職勧奨したのであれば、この先には進めません。
引き続き、働いてもらうことになります。

解雇の原則

ここで解雇の原則を確認しておきます。労働基準法に根拠があります。なお、退職勧奨は明文化されていません。

『 労働基準法 第20条(解雇の予告)
 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者  
 は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。(後略)


 2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。 』

田中事務所がお手伝いできること


問題言動を繰り返す従業員にお困りであればご連絡ください。

社外に去ってもらう事だけが解決策なのか? 部署を変える、働き方を変える、などで解決はできないか?
本人が変わる可能性はないのか? 会社や周囲は変わる必要性はないのか?
本人に何らかの事情はないのか? 退職した場合、生活に影響はないのか?

状況をお聴きしながら、解決策を考えます。





解雇と退職勧奨についてのご相談・お問い合わせはお気軽にどうぞ。(担当:田中)